よいちょよいちょの、その先
ある日。
しゃちまる村は、やっぱり寒波でした。
「よいちょ……よいちょ……」
しゃちん君は、小さな箱を抱えて歩いていました。
中には、貧乏しゃちん君が奮発して買ったケーキです。
「まるちゃん、よろこぶかな……」
でも道はつるつる、風はびゅうびゅう。しゃちん君はボロボロ。
しゃちん君の手は赤くなって、足もくたくたです。
「……あっ」
バタリ。
ボロボロのしゃちん君は倒れてしまいました。
せっかくのケーキの箱は、しゃちん君みたいにボロボロになってしまいました。
でも、つらいのはそれだけじゃありません。
しゃちん君が身につけていた、
まる秘ちゃんの――
「わあぁ！ まる秘ちゃんの宝物がぁ……！」
まるちゃんからの大切な宝物が、割れてしまったのです。
しゃちん君は、ボロボロの体で、
壊れた宝物の欠片を必死にかき集めました。
寒くて、痛くて、必死でした。
かじかんだ手でケーキの箱を立て直しながら、
「ないお……ないお……ないお」
割れた宝物の欠片を、ポロポロ泣きながら集めます。
しゃちん君の目から、大粒のなみだが落ちました。
そのときです――
「しゃちん！！」
ぱたぱたぱた。
まるちゃんが走ってきました。
「なんで、ひとりでがんばってるんだお！よいちょよいちょは、ひとりでするものじゃないお！」
まる秘ちゃんは、しゃちん君の手をぎゅっと握りました。
「でも……まる秘ちゃんからもらった宝物が割れちゃったお……」
「大丈夫だお。まるちゃんが、また作ってあげるお！」
「えっ……でも、悪いお……」
「大丈夫だお。何度だって蘇るんだお」
「まるちゃん……でも、ケーキも……
だめなしゃちんだお……」
「いいお。
しゃちんはボロボロだお。ボクが運ぶお」
「しゃちんが運ぶお」
「じゃあ、ふたりでよいちょよいちょするお！」
ふたりで――
よいちょ……よいちょ……
おうちに戻って、ケーキを切りました。
完璧じゃないけど、
ちょっと歪んでるけど、
ちゃんと甘いケーキです。
「しゃちん君のケーキ、ちっちゃくないかお？
まるちゃんの半分くらいだお」
「いいんだい。
しゃちん君はお腹いっぱいなんだい．．．よいちょ」
しゃちん君は、
よいちょ……とスイッチを入れました。
ぶぅん……。
「……あっ」
お部屋の中に、
やわらかい風が広がります。
「暖房、ついたお」
じんわり。
足の先から、指の先から、
凍えていた寒さがほどけていきました。
まるちゃんは、きょとんとしながら――
「……ぽかぽかしてきたお」
しゃちん君は、ちょっと照れながら言いました。
「ここは、まるちゃんが寒くならないおうちだお。まるちゃんが、お腹いっぱい食べるおうちだお」
そう。
しゃちん君は、まるちゃんに、いっぱいあったかくて、
いっぱい満腹になってほしいのです。
まるちゃんは、しゃちん君をきゅっとつかみました。
「……あったかいお。ありがとうだお」
それから、ふたりは、
とってもあったかいお部屋でケーキを食べました。
ふたりで並んで、半分こ。
ぱく。
ぱく。
ぱく。
「……おいちい」
「ふたりのケーキは、おいしいんだお！」
それからふたりは、
あったかいお部屋でケーキを食べながら、
たくさん、たくさんお話をしました。
しゃちん君とまるちゃんの、
ケーキとおしゃべり。
それは、何でもない時間でした。
それは、夢のような時間でした。
まるちゃんは、
しゃちん君のとなりで、ぴとっとくっつきました。
「しゃちん、大丈夫だお。
さいごは、あったかくなるお」
- 二人は今日も仲良しでした
