「よいちょっ……!よいちょっ……!」
ボロボロのからだで、クタクタの心で、しゃちん君はプレゼントを運びます。
箱の中身はまる秘ちゃんが大好きなものでいっぱいでした。
イチゴチョコの甘いケーキ。
心が落ち着くミルク
あったかいおスープ。
潤いがいっぱいのクリーム。
茶色のかわいい染料
大好きなゲームソフト。
かわいいこえのマイク。
今までしゃちん君がせっせとがんばって用意したものです。
「まるちゃん喜んでくれるかな……」
壊れた希望を大事に大事に運ぶように。
「楽しいクリスマスなんだ……」
自分にいい聞かせるように。
「まるちゃんの笑顔でいっぱいなんだ……」
必死に涙をこらえて歩きます。
いたくてもつらくてもかなしくても、しゃちん君は寒い夜を歩きました。
◆
寒い夜でした。
風がびゅうびゅう吹いて、
胸の中も、きゅうきゅう痛みました。
しゃちん君は、
地面にしゃがみこんでいました。
「……ない……」
「なくなっちゃったお……」
声は小さくて、
夜にすぐ溶けてしまいました。
よいちょよいちょして、
一生けんめい準備してたプレゼント。
よいちょよいちょして、
大事に、大事に運んでたケーキ。
北の■■の滅茶苦茶にされて
ばらばら。
ぐしゃぐしゃ。
箱は割れて、
紙は破れて、
宝物は、もう元の形じゃありません。
しゃちん君は、
しばらく、そのまま動けませんでした。
手が震えて、
指先が冷たくて、
膝は地面に押しつけられて、じんじんしました。
それでも――
「……よいちょ……」
「……よいちょ……」
しゃちん君は、手を伸ばしました。
壊れた欠片を、
一つ。
また一つ。
紙の切れ端。
ちぎれたリボン。
へこんだ箱のふた。
拾っても、
拾っても、
元には戻りません。
涙が、ぽたっと落ちました。
また、ぽたっと。
地面がにじんで、
何がどこにあるのか、
だんだん分からなくなってきます。

「ちゃんと……あげたかったお……」
「よろこんで……ほしかったお……」
声は震えて、
途中で、つまってしまいました。
しゃちん君は、目をこすりました。
でも、涙は止まりません。
拾う。
よいちょ。
また拾う。
ボロボロの手で、
ボロボロの心で、
それでも、集めます。
だれに見せるわけでもなく、
だれに褒められるわけでもなく。
ただ――
「大事だった」
それだけを、手放さないために。
しゃちん君は、壊れた宝物を、胸に抱えました。
冷たくて、角ばっていて、痛いのに。
離したら、
全部なくなってしまいそうで。
夜は、
まだ終わりません。
風は、
まだ吹いています。
しゃちん君は、
その場で、
小さく、うずくまりました。
よいちょよいちょは、
まだ、終わっていません。
夜は、深くなっていました。
風は少し弱まりましたが、
寒さは、骨の奥に残ったままでした。
しゃちん君は、
さっきから、ほとんど動いていません。
壊れた宝物を、
胸に抱えたまま。
「……」
声も、もう出ません。
泣きすぎて、
目がひりひりして、
喉の奥が痛くて。
涙は出ているのに、
泣いている感じがしませんでした。
しゃちん君は、
そっと、宝物を地面に並べました。
紙。
リボン。
箱の角。
へこんだふた。
一つ一つ、
指で触って、
確かめます。
「……これ……」
「……これも……」
名前をつけるように、
小さく、小さく。
でも――
どれも、
「プレゼント」には戻りません。
しゃちん君の肩が、
少し、揺れました。
「……だめだったお……」
誰に言うでもなく、
夜に向かって。
「よいちょよいちょ……」
ちゃんとやったはずなのに。
ちゃんと考えて、
ちゃんと選んで、
ちゃんと準備したはずなのに。
「……どうして……」
理由は、分かりません。
考える力も、もう残っていません。
しゃちん君は、
宝物を、もう一度抱えました。
ぎゅっとすると、
角が腕に当たって、
ちょっと痛かったけど。
その痛みが、
今は、
自分がここにいる証みたいでした。
「……なくなったら……」
「……いやだお……」
声が、震えました。
しゃちん君は、
背中を丸めて、
小さく、小さくなりました。
空は暗くて、
星も見えません。
この夜は、
まだ長いです。
でも――
しゃちん君は、
逃げませんでした。
壊れたままでも、
ぐしゃぐしゃでも、
全部、抱えて。
よいちょよいちょは、
続いています。
それは、
立ち上がるためじゃなくて。失くさないための、がんばり
夜は、まだ終わりません。
しゃちん君は待っていました。
希望を待っていました。
