悠久ノ風

雨耕

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雨耕。雨が激しくなってきた
悠久の風" target="_blank">悠久ノ風 番外編『雨耕』。更新しました。


――地に足をつける。
草薙悠弥は土を耕していた。
晴耕雨読(せいこううどく)という言葉がある。
晴れの日に田を耕し、雨の日に読書をするというのが主意。
そして草薙悠弥は畑を耕していた。
めっちゃ雨の日に。
この仕事を依頼したおっちゃん曰く「雨耕」である。
ガツンガツンと音を立て、草薙悠弥が土を耕す。
ザァザァと雨がふる。
雨が降るなか草薙はひたすら外来種を引き抜いていた。女っけもない。華々しさもない。地味な土仕事。、天気は雨。気温も低い。普通の若者ならテンションも低くなる事請け合い
「っしゃおらあぁぁーーーー」
だが空気を読まない草薙はハイテンションだった。
体を動かしながら草薙は事の経緯を思いかえしていた。

「畑の草をとってほしい?」
「どうもあの害草に困っていてなぁ」
日本の民家の出来事である。
「……誰かがやってくれると助かるんだなぁ」
おっちゃんが困ったように頭をかいた。
草薙に畑を頼んできたのは壮年の親父さんだった。草薙は自然のおっちゃんと呼んでいる。日本の自然、世界の自然を保護している。
草薙は縁あって、この自然おっちゃんのいる民家に数日逗留していた。
「畑ができなくてなぁ、困ってるんや」
おっちゃんは本業とは別に、畑をやっている。
だが最近畑に性質の悪い草が生えてきたらしい。
「ありゃあ、多分外来種やな」
「……なるほど」
草薙は頷いた。つまり
害草と呼んでいた。
害草といっても妖魔怪異の類いでは全くない。
害草という名前はぎょうぎょうしいが、これは普通に困った草である。
おっちゃんはその草を害草と呼んでいた。多分正式名称ではなかったように思う。
草薙的に覚えのある草だったが草薙も正式名称は忘れた。
まぁ名前とかはどうでもいい。
問題はこの害草(仮名)がまさっていては、畑を満足に耕せないという事である。
畑の害草を除去してほしい。それがおっちゃんのお願いだった。
「あんなに害草が映えていちゃあ畑が出来なくてなぁ」
だから、親父さんは草薙にこの害草を除去してほしいと頼んできたのだ。
おっちゃんは年にしては体力はあるほうだ。
だが、なにぶん害草の数が多い。そのうえゴツいのが多い。
よっておっちゃんでは対処できずほとひと困っていたらしい
「じゃあ、俺がやりますよ」
草薙がそう言った
「本当か!助けてくれるか!」
親父さんの顔がたいそう層明るくなった。
「助かる!そりゃあ助かるわい!!」
どうやら草薙の了承が心底ありがたかったらしい。
おっちゃんは草薙の手をぎゅっにぎった。
おっちゃんの土っぽい手の感触が伝わってくる。
おっちゃんの握る手、うーーんマンダム。
ともあれおっちゃんの感謝の気持ちが伝わってくる。
「ああでも、やってくれるのはありがたいんやが……明日は雨やぞ」
おっちゃんは気づいたように言った。
「なるほど……」
草薙は少し迷った。だが草薙の出発は明後日である。
明日を逃せば駆除作業はできない。ならばやるしかない。
「明日やるっすよ」
「ふむぅ…………」
おっちゃんは迷った。
「雨耕やな。雨の日に畑を耕すたぁ草薙は働き者やなぁ」
おっちゃんは真面目に言った
「……あぁ、はい……」
草薙は迷った。なんとなくどう言葉を返していいかわからなかったのだ。
「本当に大丈夫か、草薙。風邪でも引いたら悪いぞ」
「細かい事は気にしないっす」
そんなこんなでおっちゃんの頼みを聞く事になった。
畑を耕せないのはよくない。
その原因が外来種に原因があるならなおさらである。
自分がやろう、そう草薙は思ったのだ。
それにちょっとした謝礼ももらえるらしい。
ならばやらぬ理由はなかろうて。
草薙は心よく、畑にはこびる外来種の害草の除去を引き受けたのであった。
(まぁそんな大した仕事じゃないんだけどな)
いうても只の雑草掃除。
誰でもできる仕事である。
外来種といっても妖魔怪異の類いではなく、正に誰でもできる仕事だ。だが――
(自分以外にできるからといって、自分がやらない道理はない)。
日本の畑が外来種によって荒らされているのだ。ならば自分がやろう。
只の雑用――それもまた良し

「フンフンフンフーーーン!!」
回想終了。
草薙が賭け声と共にクワをおろす。
ガツンと音をたて土がえぐれる。
「よいしょー!」
草薙が害草を根元からぶち抜いた。
ずぼおぅ害草が地面から出た
「とったどぅお!!」
根っこを引き抜いた害草を腕で持つ。
クワを片手に、片手に引き抜いた害草雑草。完全に農民だった。
素手でやれん事もないが、クワを使っている。
やはり、畑の土をいじるのはクワである。本気で振るうとおっちゃんのクワが壊れる可能性大なのでそのあたりは気を使ってる。
「フンフンフンフーーーーン!!」
フンフンという掛け声と共にクワを降り下ろす。気合が入っていた。
草薙の秘技の一つ、おっぱいを揉む「フンフン乳もみ」ばりの気合いを感じさせた。
気合いをいれて草薙は土をほり、外来の強害雑草をぶちぬく。
ガツン!
ガツン!
ガツン!
害草にクワを降り下ろす。
どんどん土がえぐれ、どんどん害草が地表にひっくり返った。
害草の凶悪な根元が見えた。
(確かにこれをおっちゃんが全部やるのはちょいきついな)
草の根というのは意外なほど強壮なもの。この害草の根っこも中々豪快な大きさだった。
「よっと」
草薙は害草を積み上げた。
(ふむ……)
ふと草薙は空を見上げた。
雨が降っている。
だが雨がふる中、草薙は構わず畑を耕しているのだ。
「よいしょーーー!!」
しかもハイテンションである。
風邪を引きそうなものだが、草薙はあまり風邪をひかないのだ。
「子供は風の子、元気な子」
なかばヤケクソ気味にクワを降り下ろす。
どう見ても文明人の振る舞いではない。
雨の日に作業をする事のメリットが全くないわけではない。
(雨で土が柔らかくなってやがる、か?)
体感だが、そう思った。
ガツン、とクワが勢いよくつきささる。
おっちゃんは自然保護のために非常に忙しい。よって本業とは別にやってるこの畑はお世辞にもよい状態とはいえない。土を掘り起こすのに適した畑ではないが、クワはさほど力を入れなくとも地に通る。
雨降って地固まるという言葉があるように乾燥などの条件が絡めば、土は固くなる。だが少なくとも今はそれはあてはまらないようだった。
ザクザクと土を掘り起こす。
ぶちぶちと害草を引き抜く。
ザクザク掘る。
ブチブチ引き抜く。
土で手が汚れる。
気にせず作業進める。
黙々と作業を続ける。
「おっ」
爪の間に土が入る。
腕や指が大層土汚れていた。
だが、不快さはあまりなかった。
「洗うか~」
雨に向かって適当に手を伸ばした。
雨が土を流す。草薙はその間ぼーっとしていた。雨が草薙の体を流していく。手以外の所も土で汚れていた。それが雨で少し綺麗になった。
「わるくねぇな~これ」
少し気持ちよかった。
土で汚れた体を雨で適当に流す。
草薙はそれを気持ちよく思った。
草薙のは、我ながら適当な奴だな~と思った。
(まぁそれもまた良し)
これまた適当に考えて草薙は作業を再開する。
体を動かし土をえぐりだし害草を引き抜いていく。
雨がざぁざぁふる。黙々と、されど軽く適当に、草薙は作業をしていた。
「よっしゃあ!害草ゲットだぜぇ」
また草薙が害草をとった。
雨の中 只、作業
草薙はとった害草を積み上げた。
多くの害草を積んだ。
貝塚のように、害草が積み上がる。
草薙は害草塚と名付けた。
雨が強くなってきた。
(このままやろう)
だがこのままやろうと、草薙は思った。
こういうのは休憩が入ると再開がおっくうになるのだ。
雨が降っているのでなおさらだ。
無理矢理にでもテンションをあげて進めるのがキチである。
作業を進める。
害草を積み上げる。
「よっと」
草薙がまた一つ害草を引き抜いた。
雨足が弱まる気配はない。
「…………」
立ち止まる。
足元を見た。
みずみずしい濡れた草が雨に揺れている。
草薙はふぅっと深呼吸をした。
草薙は風のように気分を変える男でもあった
――雨宿りをしよう
そう思った。
正直今更あまり意味がない。
草薙は既にめっちゃ濡れている。知らぬ人が見たら「うひゃあ」っと驚かれても無理はないほどの濡れっぷり。
今更雨宿りなどしても意味はないだろう。
ただ雨宿りをしようと思った。
理由は無論、なんとなく。
草薙はなんとなく、という感覚を大事にするのである。
なんとなく、は心の欲求である事が多いからだ。
そういうわけで雨宿りできる場所はないものか、草薙はぼーっとした足取りで歩いた。
小さな木があった。その下に腰をかけた。雨宿りするには木は頼りなく小さく思えた。
正直「こりゃあんま期待できんやろな」と思った
この雨では、この頼りない木の下にいようとも雨を凌いではくれないだろうと思ったのだ。
(まぁいいか)
そう思い、草薙は木の下に腰かけた。
(おっ……これは思ったより雨がこないぞ)
木の下は意外なほど雨を凌いでくれた。
これはいい、草薙は少し愉快な心持ちになった。
葉緑豊かな葉が雨を凌ぐ。草薙はぼんやりと掃除した畑を見た。
作業中体を動かしていた。だがこうやって木の下に腰をおろすと落ち着く。
ゆっくりと、辺りを見回す。
(やぁ、中々とったもんだ)
畑には草薙が引き抜いた外来種の害草が散乱していた。
積み上げているものもあるが、畑に散らばっているものも多い。総数でいえば数えるのがしんどい数だろう。
おもいのほか駆除したもんだ、他人事のように草薙はそんな事を考えた。
畑にはたくさん土が抉れている。
(…………)
休憩する。
雨の中、木の下で雨宿り
静かな雨宿りの時間は益体もない思考の呼び水になった。
(雨耕……雨耕か……)
おっちゃんは雨耕といっていた。
だが草薙は外来の害草をひたすらとっただけである。結果として、土が耕され、ほぐれた所も多々ある。だが今自分がやっている外来種の駆除が畑を耕すという行為にあたるのか実感が薄い。
(……まぁ……いいか)
思考を切り上げる。あまり深く考える事ではないと思おうとした。だが――
(耕す、って事でいいか。今日は)
なんとなく、そう思いたいと思った。草薙は言葉の正確さにこだわらない。
いい加減にいい加減な所も日本語の美点だ。
草薙は改めて周りを見た。
雨の音、鳥の声。いろいろな事に気づく。
空気が綺麗だな、と改めて思った。
雨の日は空気が綺麗。体感だがそう思う。
周りに人はいない。
雨の音が心地いい。
雨音に紛れて鳥の声も聞こえる。
草薙は木の下でゆっくりと畑を見回した。
のどかな田園風景。
特別な景色というわけではない。
どこにでもある田舎の風景だ。
「それもまた良し」
いい所だった。
都の喧騒からは切り離された豊かな自然。
素朴な風景が広がっている。
雨に濡れた畑の草木が瑞々しい。
緑の葉に垂れる雫は透明で、ポタリ……ポタリとたれおちる水滴が綺麗だった。
(……あぁそうか)
なんとなく、草薙は思った。
自然がみたかったのか。
雨には独特の風情がある。
雨水に濡れる景色。
サァァァと耳をうつ雨音。
冷たいがどこか清廉な空気。
風流だな、と草薙は思うのだ。
自然が好きなんだな、日本の。
何度思ったかわからない考えが頭をよぎる。
少しだけ心が晴れた気がした。
そのまま静かにぼーーっと雨の畑を見ていた。
静かだ。人もいない。だが人がいないからこそ感じられる心地良さも草薙は好きだった。
ふと雨空を見る。雨は強い
心は晴れても、雨は相変わらずの雨模様。だが――
「それもまた良し」
軽く流し、軽く立ち上がる。
耕そう、と草薙は思った。
雨の中再び草薙は作業を再開した。

クワをおろす。土を抉る。害草を引き抜く。
クワをおろす。土を抉る。害草を引き抜く。
地道にその作業を繰り返す。
「よっと」
塚に外来種の草をおいた。
掘ったものを全て集めてるというわけではない。散乱している雑草も多々あった。
まぁこの辺りは適当に親父さんが整理してくれるだろう。
抜くのは大変だが拾うのはさほど力はいらない。なぁにバチはあたるまい、無理のない範囲でやっていこうと、草薙は思った。
(農家の人ってやっぱすげぇわ)
なんとなく、草薙はそんな事を思った。
「よいしょーーー」
思索もそこそこに、草薙はクワをおろす。体を動かす。掘る、掘る、掘る。
畑の土がよくなる事を思いながら。
外来の害草を引き抜く。
雨の中、草薙は耕すのであった。
地に足がついた男であった。

「こくてきとうめつ――っとくらぁ!」
草薙は外来の害草を一気に引き抜いた。
勢いよく引き抜かれた害草を手に周りを見た。
雨耕。雨が激しくなってきた
積み上がった害草、畑には散乱する害草はかなりの数がった。
そろそろ終わりかな。
草薙はそう思った。
畑にはそこかしこに、引き抜かれた外来種の草が散乱していた。これらを束ねて燃やのだろう。それらの始末は後日自然おっちゃんに任せよう。
空からしっとりふる雨。
地面にたくさん転がる外来種の雑草。
思ったより時間がかかった。だが取れた雑草、積み上がったギシギシの小山らを見ると小さな満足感もある。ただやはりそこは雨天か。凄く多くとれたというわけでもない。何でもない仕事。量だけみれば正に「人並みの仕事」なのだ。
だが――
それもまた良し
草薙は満足げに頷く。
何でもない、労働の喜びであった。

「こ、こいつはぁぁ!!」
翌日。おっちゃんは畑の様子を見てびっくらこいた。
「めっちゃとれとるやないか!!」
畑に引き抜かれまくった、外来の雑草。
畑に散乱する、引き抜かれた数々の害草を見て、おっちゃんは歓喜した。
「はっはっは俺も外来の害草をとれて満足だともどわはははは」
「どわはははは」
草薙とおっちゃんは派手に笑いあった。
「ようやってくれたぁ!! 」
おっちゃんバンバンと、草薙の肩を叩いた。
「ほんにお前はようやってくれたわい草薙!!」
おっちゃんは大層感謝した。
「雨の中、ようここまで耕してくれたで!ありがとうなぁ!!」
「……おう!!」
おっちゃんの労いの言葉に草薙は頷いた。
「なんせこう見えて日本とか結構好きだからな」
草薙はいった。
「ガハハハハ!」
「ガハハハハ!」
草薙とおっちゃんが笑い合う。
「それにしても……あの雨ん中……ようやってくれたなぁ……」
おっちゃんは感心したように畑を見た。
「ほんま、ありがとな、草薙」
おっちゃんが笑った。明るい顔。
心のモヤを風ではらいとばされたような、そんな明るい顔だった。
それを見て草薙は頷き――
「んじゃあ、そろそろ俺は行きますよ」
風のように軽く、別れを言った。
草薙は旅支度をする。
その後ろ姿を見て、
おっちゃんは草薙に聞いた。
「草薙、なんでそんなに日本が好きなんや?」
おっちゃんは聞いた。
「無論、なんとなく」
堂々と、草薙は言った。
その答えに、おっちゃんは苦笑した後、ガハハと笑った。
草薙は歩き出す。
軽い仕事に軽い足取り。
風が吹く。
空には晴れた太陽が輝いていた。

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